shin422のブログ

『哲学のヤンキー的段階』のための備忘録

香港よ、さようなら

 先月30日に、中華人民共和国全国人民代表大会全人代)常務委員会で「香港国家安全維持法」が可決され、当日に施行されることとなった。これを以って、当局は早速「被疑者」を拘束し始めている。中共共産主義者としての本性を露骨に現したのである。この件は世界各国のメディアでも連日報じられており、中には「香港の死」とまで表現するメディアもある。日本のメディアはおそらく中共に阿り、この件を大きく報道していないだろう。案の定、日本の左翼は米国の騒動を取り上げるものの、より悪質な中共の暴挙には無視を決め込む。具体的に名指しすることは避けておくが、中共の工作機関と内通している社会主義を掲げる某団体の構成員である身分を隠して表向き耳触りのよい平和運動の形をとって「市民運動」に専従する者が深くコミットしているので、当たり前と言えばそれまでだけど。ちなみに、この人物は既に公安の監視対象であり、この団体の機関紙を読めばあからさまな中共擁護の姿勢であることがわかる(ネット上に公開されているので、誰でも読める)。米国の騒動について「米国市民(この人は「国民」とは言わず「市民」とだけ言う)の反差別主義闘争やアジア民衆の反植民地主義と連帯しよう」と言うのに、かつてのナチス顔負けの民族浄化政策や覇権拡張を続け、香港の自由を弾圧する中共の批判は一つとしてしない。

 

 この法律は、「国家分裂」、「国家転覆」、「テロ活動」、「外国勢力と結託し国家の安全を害する行為」を取り締ることを目的としている。立法趣旨だけを見れば正当性があるように思われるが、なぜ各国がこれを懸念し、香港市民が強く抵抗しているかと言えば、中共中央の都合に従って極めて恣意的に解釈・運用されることが火を見るより明らかであるからだ。本法の対象事案についての裁判にあたっては裁判官の身分保証もなされず、中共の意に沿わない者ならばいつでもすげ替えができるという仕組みになっている。民主集中制という美名の下での共産党による全ての国家権力の諸作用の独占的行使の恐怖が、香港をも覆うようになったわけだ。ちなみに、日本共産党民主集中制を採用し、党中央の意に反する意見があれば、これを直ちに「分派活動」とレッテルをはり、時にはその者の身柄を事実上拘束して査問という名の拷問にかけてきた。今もその組織体質に変わりなく、だからこそ、かつて交番を襲撃したり火炎瓶を投げるなどして武装闘争路線をとってきた日本共産党は、まだなお公安調査庁の監視対象団体であり、警視庁公安部公安総務課も日本共産党の監視や情報収集を念頭に少なからぬ人員を割いてきた。

 

 甘い顔をして近づいてくる共産党が、万が一にでも政権を握ることになるや、反対者の粛清に乗り出すに違いないだろう。共産党共産主義者がこれまで重ねてきた歴史を見れば容易に想像がつく話である。連中の常套であるが、自分たちの勢力が弱い時は本性を隠して他の団体などに甘言を弄して近づいていく。そして、その内部に党員を送り込みその団体の主導権を握るという戦略を講じる。例えば、「平和運動」や「反原発運動」を組織する「市民団体」(これだって実は、特定政治党派の人間が絡んでいることが実際なのだけど)に協力を呼び掛けて関係を構築する。そして、その内部に党の支持者を増やしていくことで主導権を奪取する。気がつけば共産党の票田と化している。だから、時には極左暴力集団中核派革マル派が身分を隠して「市民運動」に紛れ込むことを極端に警戒しもする(日本共産党極左暴力集団は、六全協以降対立関係にあり、そのことは全共闘が暴れ回っていた頃に大学の正常化をうたって共産党の事実上の下部組織である民青と全共闘が殴り合いの抗争を繰り広げていた。日本共産党のイデオローグを率先して務めた連中は、こうした新左翼批判に精を出していた。共産党の連中が廣松渉を極端に忌み嫌うのも、廣松が新左翼のブントと深く関わっていたことが大きく影響しているはず。廣松も一時は日本共産党の党員で国際派に所属していたらしいが、党による査問という名のリンチを立命館大学構内で受けて以降、京都の地に足を踏み入れることはなかったらしい。左翼内の内ゲバの凄惨な様は、今では多くの人の知る所となったが、その拷問の一例は、太腿に穴を開け、そこに腐った牛乳を流し込むという常軌を逸したものもあった。共産主義者による忌まわしい虐殺や凄惨な拷問の犠牲者は既存の社会主義国だけでなく、日本でも起こっていたのである)。

 

 香港の自由や独立のための言論活動をするだけで「国家分裂行為」であるとの疑いで検挙されたり、中共に否定的な外国メディアの取材を受けただけで「外国勢力と結託し国家の安全を害する行為」に加担したとして逮捕されかねない危険性もある法律。鄧小平とマーガレット・サッチャーとの間で交わされた英中合意で認められた「高度の自治」を事実上否定する暴挙に対して、世界中から批判が起きている。しかも、対物的強制処分である(逮捕に伴う捜索差押えというのとは異なる通常の)捜索・差押え手続きの無令状執行を許容するなど、およそ近代法の原則すら遵守しない本法によって、法の支配に基づく香港の「自治」は、さらに一段と形骸化していくことは明白。恐ろしいことに、本法は外国人も適用可能であるという点である。極論すれば、中共に批判的言論活動を展開し、香港の自由を求める声に呼応する主張をしている外国人が、たとえ当該国の政治的意思決定及びその実施に影響を与える行為をしたとまで言えなくとも、香港国際空港の入国ゲートを超えた瞬間、直ちに当局に拘束されてしまうことだってありうるのだ。

 

 国際金融取引のハブとしての役割を担ってきた香港の利点は、まずは英国法継受の法体系による統治が曲りなりにでも確保されているという信頼の上に立脚して可能であったところ、今後、どうなるのか。中共の政治的圧力を恐れて今後のビジネス展開にとって当局に目をつけられてはかなわないとばかりにHSBCは早々に本法への賛意を示すという有様だ。そうした金融機関もまたぞろ湧いて出てくるのだろうが、かつての「反共の砦」としての自由な香港の魅力は失われていくだろうことははっきりしている。習近平はバカだから国際金融センターとしての今の香港のもたらす利益が理解できずに愚かな行為に出たと見る者も中にはいるが、中共中央をそう甘く見ては痛い目にあうだろう。確かに習近平自身は大して頭のいい男とは言えないだろうし、経済や金融に関してはアホという評価は正しいと思うが、これが習近平自身の暴走ではないのだとしたら、これまでの香港の特殊な位置づけから得られた利益を犠牲にしてもなお余りあるメリットを中南海の連中は周到に考えた上で決定したに違いないと見ておくべきだろう(悲しいかな、中南海に巣食う中共中央の指導部の面々は、我が国の永田町の盆暗どもよりも格段に頭がよく、長いスパンで中共の覇権拡大を虎視眈々と計画・準備・実行に移してきているのだ)。

 

 新帝御即位を内外に宣明する即位礼正殿の儀に参列した後、その足で北海道への視察に直行した国家副主席の王岐山は、元は歴史学者であったが国際金融にも通じ、ウォール街とも深い人脈を築いている切れ者だ。中国科学院や中国社会科学院の研究者をブレーンに持ち、科学政策においても長期的視野で的確な判断ができる人物で、清華大学経営管理委員会の外国人メンバーを見てもわかるように、様々な方面に実効的な楔を打ち込んでいる。国務院総理の李克強も朱鎔基ほどではないにせよ、我が国の現在の政治家よりも遥かに優秀だ。習近平そのものは単なる「くまのプーさん」でしかない(その意味で、我が国の内閣総理大臣安倍晋三と似たり寄ったりであって、正真正銘のアホであるムン・ジェインよりかは幾分マシといった程度だ。米国も大統領候補者が方やトランプで方やバイデンという「究極の選択」を迫られている有り様だ。トランプがヤバいことは衆知のところだが、バイデンも負けず劣らずヤバい奴だということがあまら伝わっていない。メディアを敵に回すトランプに勝たせるわけにはいかないと思っているのか、バイデンが白人至上主義人種差別過激派のKKKの幹部と関係していることや、どうみても認知症の兆候が見られることがあまり報道されていない。「カレー味のウンコ」か「ウンコ味のカレー」かいずれかを選べと迫られても、「どっちも食いたくない」というのが、ごく普通の人の反応だ)。

 

 共産主義者の通例として中共が牙を剥き出しにしてきたのは、もちろん国力が昔に比べて格段に向上し、経済力だけでなく軍事力の飛躍的な増大が背景にある。例えば、尖閣諸島の領有権を主張し始めたのは1970年代だが、それを明確に国家の核心的利益の一つとして打ち出したのは1992年に制定した「領海法」である。しかし、この頃は人民解放軍の軍事力は我が国の自衛隊の実力に対抗できるほどではなかったので大人しくしていたが、大軍拡の末に尖閣諸島に対する挑発行動をエスカレートさせていった。これはちょうど第4世代の戦闘機の機数が航空自衛隊のそれを圧倒的に凌駕するようになり、東シナ海の制空権をわが自衛隊が確保できなくなった時期に重なる。中共は国際政治のリアリズムに徹しているので、力の裏打ちのない外交など所詮は絵空事でしかないことを熟知している。戦略的思考に長けた中共南シナ海東シナ海を自国の領海に組み込み、少なくともインド洋から西太平洋の地域一帯の覇権を握るための行動を着実に進めている。尖閣諸島を掌中に収めることは、次の目標である台湾の武力統一と沖縄の併合のために必要な一歩である。香港問題は、他人事として傍観して済ませる問題ではなく、我が国の死活問題でもあるのだ。

 

 「今こそ反共の戦いを!」と叫びたいところだが、国内には中共の回し者みたいな連中もいれば、問題の所在にすら気がつかない釜中の魚もいるので、日本国及び日本国民の生存と繁栄を維持したいと思う人々には前途多難な戦いが強いられる。この期に及んで習近平国賓訪日を考えているとは思いたくもないが、そんなことをしようものなら中共独裁政権による香港の暴力的制圧を容認する姿勢を日本は見せているという誤ったメッセージを国際社会に送ることになる。