shin422のブログ

民族派右翼による「便所の落書き」擬きの極私的備忘録

安倍政権の功罪-外交編

 いつも通りの時間に目を覚まし、いつも通りニュースのヘッドラインに目を通すや、いきなり「日本の安倍晋三首相が辞意表明」とのテロップが目に入ってきた時は、一瞬我が目を疑うほどの衝撃だった。数日前の「吐血報道」といい、二度の慶應義塾大学病院への通院報道といい、日本国内のみならずホワイトハウスウォール・ストリートでも健康不安説が囁かれていたものの、多くは辞任することはないだろうと高をくくっていた。それゆえ勢い、衝撃の度合も大きい。

 

 CNNでも急遽東京の総理官邸での記者会見のライブ中継に切り替わったようだし(僕は寝ていたのでライブ中継は視れず、後で確認するほかなかったが)、米国だけでなく英国のBBCなど世界中でライブ配信された模様。早速、各国の首脳も声明を出すなど、安倍晋三首相の辞意表明のニュースは瞬く間に全世界を駆けめぐった。日本の首相の辞意表明のニュースが世界の大ニュースとして速報された例は、極めて珍しいのではないか。それほどまでに、安倍首相の国際社会における存在感は、最近30年にわたる歴代首相の中でも際立っていたということが伺われる。

 

 持病の潰瘍性大腸炎の悪化による自民党総裁任期半ばでの突然の辞任となったことは気の毒だし、安倍首相自身もさぞや無念だったに違いない。その無念は、総理記者会見での表情や言葉の節々にも現れていた。内閣総理大臣という重責を担う立場にあって、長年孤独の中で重圧に耐えてきたことに対しては、まずは「約7年8ヶ月の長い間、お疲れさまでした。とにもかくにも、病状が多少なりとも快復の方向に向かうよう御自愛下さい」という言葉をおくりたい。

 

 中には、病身の者に鞭打つかのような品性下劣な言葉を投げつける者もいたり、性根が腐っているのではないかと疑いたくなるような言葉を弄する野党議員もいる。政治的立場が異なることで、普段は丁々発止やり合う中で時に強い言葉で批判することは寧ろ健全な態度と言えるだろうが、潰瘍性大腸炎という難病に苦しみながらもなんとかそれに耐え続けていたところ、もはや限界に達して志半ばで倒れた者に対して、その病気を論ったり揶揄したりする言動はとるべきではない。

 

 この点、日本共産党市田忠義参院議員の見識はまともだった。僕は民族派の立場だから、当然に日本共産党共産主義者を始めとする左翼に対する敵対者であるが、今回の市田議員の言葉は節操あるまともな発言だし、同期ということもあって安倍首相と個人的には良好な仲と言われる志位和夫議員も然り。その他にも僕の知る所では、国民民主党山尾志桜里議員や玉木雄一郎議員の発言も極めてまっとう。もちろん、かく解するからと言って、安倍政権の政策が正しかったというわけではない。それとこれとは別の話である。

 

 この歴代最長政権については功罪両面あり、僕も安倍首相を散々批判してきた。特に、皇室に対する不敬ともいうべき振舞いや我が国の伝統に対する無理解に激高して、強い言葉で非難さえしてきた。加えて、財政金融政策その他の経済政策などの諸政策や内政上の諸問題(特に、財務省の公文書改竄問題は由々しき事態であって、安倍首相自身が改竄に関与したとは思われないけれども、国民に対する十分な説明がなされなかったことは批判されるべきだろう)について誤りは多々ある。これからその功罪が検証されていくことになろうが(特に、内政面では看過できない問題を抱える)、ここでは外交・安保政策に絞って、安倍政権の功罪を見ていきたい。

 

 端から結論めいたことから入るが、安倍政権の外交・安保政策は一部に問題はあるものの、概ね「合格点」がつくように思われる。安倍首相辞意表明の報に接した各国首脳たちの安倍首相への賛辞と慰労の声明がそれを物語ってもいる。特に、旧民主党政権時に壊滅的に悪化した米中二大国との関係を、困難な政治状況の中でありながら改善の方向に差し向けた功績は大なるものがある。G7やG20などの国際舞台における日本の首相の存在感が希薄どころか、ほとんど「蚊帳の外」状態の無残な姿を晒した旧民主党政権時を想起すれば尚更、安倍外交が国際舞台での日本のプレゼンスを高めるのに貢献したかが際立つ(旧民主党政権時に外交面でまともだったのは、玄葉光一郎元外相くらいだったのではないだろうか)。

 

 日米関係の再構築については、もちろん通商面での問題はあるが(この点については別稿)、概ね良好な結果をもたらした。対中政策についても、戦略的互恵関係の構築に努めつつも、同時に中共の覇権膨張の動きを牽制するため、「自由で開かれたインド太平洋戦略」を掲げて米国や豪州やインドを巻き込んだ価値観外交を打ち出すことによって楔を打ち込むことも忘れなかった。米国オバマ政権の対中政策の大失敗によって南シナ海での人民解放軍の暴挙を許す結果となる中で、これ以上の横暴を容認できないとして米軍のプレゼンスの重要性を米国自身に認識させた功績も忘れてはならない。

 

 現在の日本の国力からすれば、残念ながら全面的に対中強硬策を日本単独で行うことなど不可能だけれど、親中一辺倒に陥らず(もちろん不満はあるが)、表向き「友好関係」を装いつつ、裏では対中牽制を米国に働きかけるという難しい外交にも取り組んだ(前国家安全保障局長である谷内正太郎の寄与も大きいかと思われるが)。その一方で、台湾との良好な関係を維持・発展させたことも、目立たないが評価されてしかるべきだろう。習近平国賓訪日実現に前のめりになるあまり、防疫体制が不十分なものにとどまり新型肺炎罹患者を増やしてしまったし、親中派主導の日中接近という愚策に乗りかねなかった危うさがあったが、いずれにせよ、対米・対中・対台関係の微妙な舵取りが求められる中、何とか無事に捌いてきた安倍対中・対台外交は、ギリギリ合格点がつくだろう。

 

 アラブ諸国やイランとの良好な関係を維持しつつ、同時にイスラエルとの関係をも強化した功績も、あまり注目されていないが重要な功績ではないかと思われる。イスラエルとの関係強化は単に経済面だけでなく、我が国の安全保障政策においても多大なメリットがある。とりわけ、情報セキュリティ分野に関するイスラエルの科学技術力は世界でも指折りで、イスラエルは日本の防衛体制や諜報活動の充実にとっても今後欠くことのできないパートナーでもある。従来の日本外交はアラブ諸国やイランに偏りすぎのきらいがあったが、情報科学や軍事技術の先進国イスラエルとの安全保障面での関係強化は、特に対中・対北防衛にとっても資することは間違いなさそうである。

 

 この辺の領域に関して、いかにイスラエルが進んでいるかは、外交・安全保障政策とほぼ無関係であるはずの哲学研究の分野にも反映されている。イスラエルの哲学界は数学・論理学・計算機科学・物理学と結びついた哲学研究が盛んで、少なくとも僕自身が読み親しんだ者を挙げるなら、邦訳もある名著『空間の概念』(講談社)や『量子力学の哲学』(紀伊國屋書店)で知られるマックス・ヤンマー、統計的因果推論やベイジアン・ネットワークの進展に寄与したジューディア・パール、量子論や確率論の哲学で高度に抽象的な思考を残したイタワール・ピトウスキー、数理論理学者で暗号理論でも有名なマイケル・ラビンといった面々だ。残念ながら、我が国にはこのレベルの哲学の研究者は皆無だ。

 

 ところが、日本のマスメディアは、この安倍・ネタニヤフ会談の意義に触れない。せいぜいハンで押したように、「パレスチナ問題」を強調して否定的に報道するくらいで、国家安全保障戦略上の意義について触れた論評は僕の知る所では皆無だった。この重要性を理解しているのは、イスラエル人かも知れない。「パレスチナ問題」が深刻でないとは言わない。ただ、多くの日本人のイメージする姿とは異なり、「パレスチナ問題」はほとんどアラブ世界での「建前」と化しており、その実態はアラブ世界での巨大な利権の巣窟となっているように思われる。「アラブの大義」と言うけれど、実は本気にしている者は意外と少ないと耳打ちしてくるUAEを母国とする知り合いもいる。

 

 他方、狂信的なシオニストとこれまた狂信的な反シオニズムが角突き合わせ、過激派ハマスの指導者やイランのアフマディネジャド前大統領などは、「イスラエルを地上から抹殺する」と公言して憚らない。トランプ大統領とやり合い、一部左派メディアからヒロインのように扱われもした米国の民主党にいるイルハン・オマル議員も、「イスラエルを消滅させろ」とジェノサイド容認発言をしているが、なぜか彼女をメディアは非難しない。都合の悪いことは隠蔽する左派メディアにありがちなことだが、こういう者がいる限り、イスラエルは頑なに強権的な姿勢をとり続ける。世界から同情されながら滅ぼされていくよりも、世界を敵に回してでも自国の生存を守り抜くというのが、かつてジェノサイドを経験したイスラエルの者の本音だろう。

 

 一方で、イランとの関係が他国よりも良好な関係のままにとどめられているのも、安倍外交の功績だ。旧民主党政権の時は、対イラン外交に前のめりになり過ぎになるなど、極めて危なっかしい外交を展開していた。その危なさは、ちょうど現在の韓国のムン・ジェイン政権の対北政策が国際社会の方針から孤立している姿と重なる。それでいて、対イラン外交での成果はなかった。対して安倍外交では、ロウハニ大統領の訪日があり、更にはイラン訪問時に最高指導者ハーメネイ師との会見も実現するなど、主要先進国の首脳の中でも目立つ活躍をした。もっとも、中東問題は日本の介入によって即座に解決できるような単純なものではない。米国とイランとの仲介役を買って出たはいいが、(当初から予見できた通り)成功しなかった。しかし、成功しなかったとはいえ、安倍首相が予め米国への根回しをしつつイランに対して積極的に働きかけを行ったことは一定の評価がされるべきだろう。

 

 米国とイランの緊張が高まった折に、米国からの有志連合参加の要請に関しても、米国との関係の維持を図るために有志連合とは別の形をとりつつ自衛隊を派遣し、同時にそれが対イラン敵対行動ではない旨をイラン政府に断りその理解を取りつけるなど周到な根回しも怠らず、上手く乗りこなした。この点は隣国のムン・ジェイン政権の対イラン外交の稚拙と比べればはっきりする。

 

 対露外交に関しては、プーチン大統領との個人的信頼関係を築くまでにはなったものの、長年の懸案だった領土問題の解決に至らなかった。とはいえ、対露領土交渉はこれまでも上手く行った例などなく、安倍外交の失敗とまでは言えないだろう(現状では誰が首相であろうと解決できるわけではない)。戦後日本の対露外交の出発点はあくまで昭和31(1956)年の日ソ共同宣言であり、これを基礎に領土交渉にあたるというのが我が国の基本方針である。その方針に変わりないことの言質をロシア政府から何度も取りつけている安倍外交の努力を過小評価するべきではない。

 

 中には、四島一括返還の主張を取り下げたことを糾弾する向きもあるが(民族派の多数意見もそうだが、対露外交担当者からすればこの主張は採れないとするのは無理のないことだと僕個人は思っている)、戦後の日本はサンフランシスコ講和において全千島列島の放棄を宣言した上、対ソ関係においても、平和条約締結後に歯舞諸島色丹島の「二島」を引き渡すと明記する日ソ共同宣言を出発点とするという基本方針を採っている以上、残念ながら「四島一括返還論」は無理筋の理屈に映ってしまう。それこそ、国家間合意を事実上反故にするような主張を繰り返す韓国政府と似たようなレベルに陥ってしまうのである。橋本・エリティン会談から森・プーチン会談を経て進展した領土問題交渉は、一度小泉純一郎政権時に頓挫してしまい、旧民主党政権時においてもほとんど進展を見せなかったところ、再び対露外交の中心として位置づけ、これを何とか進展させようと本気になって取り組んだのは第二次安倍政権だった。ロシアとの平和条約締結と領土問題解決による日露友好関係の強化は、対中牽制のための一つの布石でもある。これは第二次安倍政権の悲願の一つだっただけに、志半ばで倒れることになったのは痛恨の一事であるに違いない。

 

 対韓関係は安倍政権下で悪化したと一部のメディアは騒ぎ立てている。ほぼ全ての国々との比較的良好な関係を構築することに成功した安倍外交の中で、ほとんど唯一といってよい悪化した日韓関係の責任を安倍首相に帰する言説が、韓国内はもとより日本国内のごく一部の左派メディアからなされているが、これは極めて不当な評価であろう。外交とは常に相手が存在する。その相手の出方を無視して、両国の関係悪化の責任を安倍外交に帰するのはフェアな見方とは言えない。そもそも、第二次安倍政権の直前の野田佳彦政権下の日韓関係を振り返ってみれば、こうしたメディアの主張が大嘘であることがわかろう。野田政権時には、イ・ミョンバク大統領による竹島上陸が起こり、更には天皇陛下に対する許しがたい侮辱発言まであり、首相の親書が突き返されるという暴挙までなされ、駐韓日本大使の一時帰国まで起こり、日本国内における嫌韓感情に火がつくなど酷い状況であったことをよもや忘れたわけではあるまい。

 

 むしろ安倍外交は当初、冷え切った日韓関係を改善しようと努力してきた。「慰安婦問題」を蒸し返し、国際的に「告げ口外交」を繰り返すパク・クネ政権を相手に、これ以上我が国の将来世代に対する韓国からの「歴史問題」を口実にしたユスリ・タカリに終止符を打とうと、韓国側からの無理筋の主張を飲んでまで「慰安婦合意」にこぎつけた。日米韓の対北連携を崩したくないという意図は理解できるものの、安易な妥協をしてしまった安倍政権の対韓外交は、この点で失敗だったと考えるが(国家間の合意を「国民情緒」で反故にしてしまうような国を安易に信用してはならない好例だ)、予想通り、韓国は国家間合意を反故にして何度も対日要求をしかけてきている。しかし、ケンカを売り続けているのは、日本の側ではなく韓国の側であることは明白。

 

 親北左派のムン・ジェイン政権の行動を見てもわかるように、我が国から日韓関係を悪化させようと先に仕掛けたことはなく、専ら韓国からの無理難題の要求が日韓関係悪化の原因である。航空自衛隊の哨戒機に対する火器管制レーダー照射事件や2010年代の初めから俄かに騒ぎ始めた旭日旗に対する難癖、日韓請求権協定の無視、その他諸々の反日政策によって日韓関係は拗れることとなった。数年にわたる日本側からの問い合わせを無視し続けた末に生じた日本の輸出管理体制の見直しに伴うホワイト国除外についても、日本側に非があるとこれまた無茶な理屈を弄してきた。それゆえ、日韓関係悪化の責任が安倍外交にあるとする言説の無茶ぶりは、昨今の日韓関係史を紐解けば容易に明らかになるだろう。対韓外交の基本は「戦略的無視」の方針を採りつつ、最終的には対韓経済制裁に踏み切るスタンスでのぞむべきだったのに、韓国側の改善努力に一抹の期待を寄せてしまったことが、安倍外交のほとんど唯一の失敗と言える点かもしれない。

 

 これまでも北朝鮮による拉致の被害者家族に寄り添いながら拉致被害者救出に取り組んできた安倍政権ではあるが、残念ながら在任中に解決を見ることはなかった。北朝鮮が対外的挑発行動を繰り返し、核やミサイルの開発によって国際社会から孤立した状況下では拉致問題の解決のための交渉は難しい。しかも、既に拉致問題は解決済であると主張し、それどころか我が国への攻撃をも示唆する北朝鮮に対して、軍事オプションが採れない我が国の選択の幅は自ずと狭くなる。これまで拉致の存在すら認めず、事実が明らかになった後でさえ北朝鮮の立場を擁護する主張を繰り返す国内の左翼からの難癖に近い非難を抑えて、拉致問題解決を核・ミサイル開発の阻止とともに重大案件として取り組んできた努力は多としないわけにはいかない(旧民主党政権では、拉致を担った犯罪者の助命嘆願をした愚かな議員まで存在し、ましてやその者が首相にまでなるくらいだったから、左翼による拉致問題解決のための努力に対する妨害工作は相当なものだっただろうことが想像される)。

 

 安倍外交には一部失敗もあることを認めないわけにはいかないが、大部分に関しては誤りはなく、日本外交のプレゼンスを高めたと評価できそうである。特に直近の旧民主党政権の外交能力の酷さが際立つがゆえに、安倍外交の功績が光って見えてしまうのである。