shin422のブログ

『哲学のヤンキー的段階』のための備忘録

重信房子女史出所

日本時間5月28日午前に、重信房子日本赤軍最高幹部が刑期を満了して出所したとのこと。日本国内では大きなニュースとして取り上げられているようだが、大阪の高槻市で逮捕されたという衝撃の報から20年以上も経過していたことになる。

 

服役していた頃から体調が思わしからず、手術や入院も繰り返していたそうで、実際、出所後の記者会見でも毅然として質問に応答していた姿であったが、所々体調の悪さを感じさせられる場面も見られた。直近にもポリープの切除手術の予定だとか。ともかく、早く健康を取り戻して、残りの人生を心穏やかに過ごしてもらいたいものである。数々の短歌から想像されるに、鋭敏な感受性をお持ちの方だと推察される。政治経済的雑事に頭を悩ますことよりも、それこそ花鳥風月に生きていかれると、おそらく素晴らしい歌が生まれるのではないかと。

 

重信房子という名を耳にすれば、誰もが「日本赤軍最高幹部」という肩書をまず想起し、その次に「テロリスト」という形容がついてくるはず。確かに、日本赤軍が犯した数々の事件は、まさにテロリズムとしか言えない行為も含まれているし、あのような行為は世界の変革に結びつくような大衆の支持を受けられるはずも見込みもない、運動として未来の光がこぼれ出てくるような可能性もなかった。

 

日本赤軍とは真逆の政治思想を持つ僕のような者からすれば、日本赤軍の思想や行動には全く共感できないし、心ならずとはいえ、無辜の人を何らかの形で巻き込んでしまったことは許されるはずもない。そういう人々に対する一滴の涙すら流さない運動ならば、右左に関係なく、最悪の事態をもたらす。国内の医師を協力者にして偽造パスポートを利用して日本に密入国した際、精神疾患を抱える患者の名義を利用してしまったことを痛恨の極みとして猛省していた重信さんのことだから、そうした涙を持っておられずはずだ。その可能性に賭けたい。

 

日本赤軍連合赤軍と勘違いする、あるいは重信房子永田洋子と勘違いする言説が方々に溢れていることに対しては、重信女史を気の毒に思うことがある。連合赤軍で残忍なリンチ殺人の犠牲者になった遠山美枝子と重信房子は親友だった。日本赤軍は、連合赤軍森恒夫永田洋子のような残忍極まる人間によって支配された組織ではなかったし、重信房子は、決して永田洋子のような人間ではない。

 

日本赤軍の思想と行動には可能性はなかった。世界革命の標語に踊らされた空騒ぎという面も否定できない。しかし、重信房子女史は、一言でいうならば、節操を保った人物であり、この点においては尊敬に値する人物であるということだ。さらに人一倍純真な精神を持ち、かつ自らの生き方に誇りと矜持を抱きつづけて最後までブレなかった。それは、彼女の短歌を読めばわかる。繊細で頭脳明晰で、しかもある種の気品さえ漂わせた人物のそれだ。

 

方向性は完全に間違っていたと思うが、重信女史を悪しざまに罵る者には嫌悪感をつい抱いてしまう。果たして、その人物が重信女史ほどに節操を持って生きている人物なのだろうか。重信房子女史の御尊父は、戦前の血盟団事件に関与した民族派の人物だったし、女史の令嬢メイさんが無国籍という不安定な立場から日本への帰国ができるように尽力した人物も民族派の人士であった。政治思想は根本的に異なれど、この人ならば信を置けると思わせるだけの魅力があったのだろう。

 

いずれにせよ、刑期を満了して出所した今、これからは病気の治療と静養を最優先にしつつ、後世に何かを託せるはずのその人生経験から得られた思いや考えを、未来の若者たちへの言の葉として伝えてもらえたらなと思わずにはいられない。重信房子さん、長い刑務所生活でお辛いこともあったとは思いますが、ともかくご苦労様でした。