shin422のブログ

『哲学のヤンキー的段階』のための備忘録

エーリッヒ・ベッヘルの形而上学-「哲学のヤンキー的段階」理解のための予備的考察③

職場の同僚の話によると、エーリッヒ・ベッヘルは、ドイツでは優れた哲学者として知られているらしいが、現在の日本ではほとんど触れられることはない。ドイツ出身でカトリック教徒である知人から紹介されるまで僕も知らなかったわけだから、偉そうに言えな…

「自己責任」論と「無料オプション」

去年の今頃は、アホほど高かったニューヨークのアパートメントの家賃相場は一旦下落傾向を示したけれど、そんな状況は長続きせず、いつの間にやら再び高騰に転じ、コロナ禍前の水準に戻ろうという勢いが見られるところがチラホラ出始めてきた。マンハッタン…

解除の法的性質について

法学部(厳密に言うと、教養学部文科Ⅰ類在籍の者は2年時の後期から民法の一部分に関して履修が始まるが)で民法の講義を受講した者ならば必ず触れたことのある解除の効果についての法的性質に関し、学修したばかりの者からすれば、判例及び通説の見解に納得…

日本におけるポストモダニズムと批評

柄谷行人(編)『近代日本の批評』シリーズ全3巻(講談社)は、Ⅰ-昭和篇(上)、Ⅱ-昭和篇(下)、Ⅲ-明治・大正篇から成る。各巻前半後半に分かれ、柄谷行人・三浦雅士・浅田彰・蓮實重彦・野口武彦が執筆した論文を叩き台にして、共同討議を展開するとい…

「美的な乱暴」の系譜-「哲学のヤンキー的段階」理解のための予備的考察②

1990年代後半から2000年代にかけて、東京の繁華街、中でも渋谷センター街を中心に遊んでいる、概ね15歳から22歳までの若者の中で目立った存在であった「ギャル」とその男性形の「ギャル男」といったある種の「トライブ」を対象に、比較的長期にわたる参与観…

空間論・時間論に対して共同主観性論及び物象化論はどの程度寄与しうるのか

世界観総体の革命を企図する壮大な哲学体系樹立を目指した廣松渉にとって、世界認識の範疇的枠組たる空間や時間の概念がその検討さるべき主題となるのは必然的であろうと思われるところ、その膨大な業績を見渡しても、廣松哲学に固有の空間論・時間論と呼べ…

真理についてのquid factiとquid juris-「哲学のヤンキー的段階」理解のための予備的考察①

廣松渉は、広く実践哲学・価値哲学・社会哲学・歴史哲学・文化哲学をも論域に収めた哲学体系を打ち立てることにより、「近代的世界観」の地平を超克し、新たな世界観の定礎を目論んだ哲学者であった。この目論見は、哲学の理論的な動機からというより、「資…

デボーリンとイリエンコフ

赤色教授養成学校哲学部での教え子マルク・ミーチンによる攻撃によって失脚したアブラム・デボーリンは、ロシア革命を経て建国されたばかりのソヴィエト社会主義共和国連邦の哲学界を牽引する一人であった。ゲオルギー・プレハーノフの弟子であり、1920年代…

外国人投票権について

先週、米国のニューヨーク市議会は、永住権もしくは就労許可を得ている、同市に30日以上滞在する外国籍の者に対して、市長選及び市議会議員選挙における投票権を付与する法案を可決した。これによって、来年初めからニューヨーク市在住の要件を満たす約80万…

現代帝国主義論・哲学・市場

マルクス主義者ではないどころか、経済理論に関しては、一見相互に矛盾するかに見えるポスト・ケインズ主義とオーストリア学派を足して二で割ったような立場を採る者なので、当然にその主張の全てに必ずしも同意できるわけではないのだが、現在の日本の政治…

高天原とは

辛酉正月一日、太陽暦にして2月11日。日向を出立され、大和にたどり着かれたカムヤマトイワレヒコノスメラミコト(『古事記』と『日本書紀』とでは漢字表記が異なるだけでなく、その御名も微妙に変わるので、とりあえず『日本書紀』の記載をカタカナで表記し…

危険なリベラリスト

我が国の国際政治学は、米国のそれとは全く異なる様相を呈している。特に米国では、大学のみならずシンクタンクが充実しているので、国際の政治経済状況に関する論文やレポートが飛び交い、金融業者の中でも、カントリー・リスク分析のために、その類のもの…

大東亜戦争開戦から80年目を迎えて

昭和16(1941)年12月8日は、日本が米英に宣戦を布告した大東亜戦争開戦の日であり、今日は、真珠湾攻撃から数えて、ちょうど80年目を迎える。日米対立が決定的となった直接的契機は、南部仏印進駐であると言われる。確かに、この認識自体に誤りはないだろう…

和辻倫理学と"airheadness"

小堀桂一郎『和辻哲郎と昭和の悲劇-伝統精神の破壊に立ちはだかった知の巨人』(PHP)は、戦前・戦後を通じて時局に便乗して変節することなく、日本の文化・伝統を固守しようと奮闘した知識人の一人として和辻哲郎を取り上げる一方、対照的に、折口信夫や鈴…

現代のマルコポーロ

ライプニッツは『クラークとの往復書簡』において、空間・時間の存在に関して絶対説を採るニュートンに対し、関係説の立場を擁護した。この関係説によると、時間は同時に存在しない諸点の順序であり、一方の他方の比率である。空間は、同時に存在し、相互作…

マルクスとサルトル

哲学における人間社会の本質と構造についての議論は、発生論的な議論よりも存立構造論が中心に据えられる傾向にあるように見受けられるが、この点に関して、廣松渉『役割理論の再構築について』は、社会生成の基底に関して役割行動論に基づく発生論的な論理…

常識と保守

「常識」とは何かと問う時、そこに現れた文字だけを頼りにしてその意味を探ると、「常人でも持っているような知識」となりそうであるが、これだと、"common sense"ではなく"common knowledge"になってしまう。そうすると次に、"sense"には「知識」という意味…

吉本隆明と批評

昭和史を紐解くと、昭和60(1985)年は色々な面で一つのメルクマールの年であったことがわかる。贔屓にしている阪神タイガースが21年ぶりに優勝した年で、地元西宮はもとより、神戸や大阪の街も優勝フィーバーで沸きに沸き上がったという。ミナミの街では、ケ…

憲法制定権力と一般意志

1789年の「人および市民の諸権利の宣言(いわゆる「フランス人権宣言」)」16条に明記されている「権利保障」と「権力分立」の概念は、近代立憲主義の下での憲法を支える主要な構成原理である。この「フランス人権宣言」は、英国の1215年の「マグナ・カルタ…

グロティウスとストア派

ベンヤミン・シュトラウマンのHugo Grotius und die Antike. Römisches Recht und römische Ethik im frühneuzeitlichen Naturrecht (Baden-Baden)は、フーゴ―・グロティウスの著作の中でも、主に『捕獲法論De jure praedae commentarius』と『戦争と平和の…

TreatiseとEnquiry

デイヴィッド・ヒュームほど、哲学者の中でその人格につき毀誉褒貶著しい人物も珍しい。ヒュームの哲学が、ピューリタンにとって不都合と受け止められたため、真っ先に、ビーティやウォーバトンのような神学者からの批判があった。猛烈なバッシングに対して…

「ブラック・スワン」と歴史主義

歴史社会学者イマニエル・ウォーラーステインは、1848年の二月革命と並んで、1968年の「パリ五月革命」を近代史における転換点となる「革命」として位置づけている。この見解は、ウォーラーステインの学説全体への評価とは別に、あまりに陳腐に見えてしまう…

ブルシット・ジョブ

将棋の棋士で、一時は弟弟子の大山康晴十五世名人と鎬を削りあった「升田・大山時代」を演じた升田幸三実力制四代名人は、「棋士という仕事は、別に世になくてはならない仕事というものではない」と言った。もちろん、この言葉は棋士という職を貶めたい意図…

「改革」とは、即ち「粛清」の別称なり

鴉の鳴かない日はあれど、「改革」の絶唱が鳴り止む日はない。そう思えてくるほど、世間では、とかく「改革」の言葉が好まれる。「改革」されさえすれば全ての問題が解決されるかのような幻想が振りまかれ、見せかけの「特効薬」の効用書に惑わされた大衆が…

fagging out

ギャングに属するゲイの男にとっての「男らしさ」とは、どのようなものなのか。ヴァネッサ・パンフィルのThe Gang's All Queer: The Lives of Gay Gang Members, NYU Press.はこう問いかけている。パンフィルは社会学と刑事政策の分野で学位を取得した女性研…

訴訟における証明論の基礎

東京大学教養学部理科Ⅰ類から法学部に進学したという「変わり種」である太田勝造が、東京大学大学院法学政治学研究科に提出した修士論文(指導教官は、高名な民事訴訟法学者の新堂幸司。なお、新堂学説の中で最も有名な部類に入るだろう争点効理論については…

法学の基礎

最近漸く手にした菅野和夫『労働法の基軸-学者五十年の思惟』(有斐閣)を読むと、現在の我が国で最高峰に位置する労働法者の、業績に裏打ちされた自負と併せて、言葉には出さないまでも「俺が日本の労働法学を背負って立つんだ」という静かな気概に支えられ…

快楽の倫理

大江健三郎『われらの時代』の冒頭は、「快楽の動作をつづけながら形而上学について考えること、精神の機能に熱中すること、それは決して下等なたのしみではないだろう」という文章で始まっている。この小説は、『飼育』や『芽むしり仔撃ち』といった傑作と…

ナショナリズム

大澤真幸『ナショナリズムの由来』(講談社)を読んだのは、まだ大学に入学してしばらく経ち、一人暮らしがしたくなったために、実家から大学まで十分通えたにもかかわらず、「渋谷で乗り換えるのが面倒だ」とか何とかゴネた挙げ句、どうにか引越しすることに…

「信用貨幣」とは何か

以前、朝日新聞編集委員の原真人が、「れいわ新選組」代表の山本太郎の主張する経済政策が、日本でも一部の支持を集めているというMMT(現代貨幣理論)に立脚する政策に基づくものであり、そのMMTは根拠薄弱な経済学的に受け入れ難い「トンでも学説」である…