shin422のブログ

『哲学のヤンキー的段階』のための備忘録

量子ファイナンスの道標

イスラム金融国際教育センター教授で、シンガポール国立大学の執行委員も務めるベラル・エサン・バーキーは、米国のカリフォルニア工科大学とコーネル大学で理論物理学を専攻し、主に場の量子論を研究した後、ファイナスや経済に興味を持ち、そこに量子力学…

マルクスと新古典派、あるいは資本主義の反脆弱性

残念なことと言うべきか、現在もなお世界には不相当な不平等が残っており、それどころか、ピケティやスブラマニアンの説明が正しいとするならば、むしろ不平等は拡大しており、そのためか、勢いマルクス主義の思想的魅力に惹きつけられてしまう者が一定数存…

議院内閣制について

カール・シュミットの思想は、民主制の危機および議会制の危機に乗じて形成されてきた。西欧各国における国民国家形成の原動力の一つとなったリベラル・デモクラシーは、市民社会の成立とともに確立されていった法治国家体制の政治理論として機能した。市民…

反地球市民的人間の遊撃

自分自身のことを「日本人」であると自覚することは度々あれど、「地球市民」と思ったことなど一度たりともなかったし、なりたいと思ったこともない。加えて、「地球市民」なる人種に生まれてこの方一度として出会ったためしなどないし、おそらくこれからも…

現象学と芸術作品

20世紀の哲学の幾つかの潮流に見られた特質の一つとして、哲学と芸術作品との接近が挙げられる。もちろん、それ以前の哲学にも芸術を論じるものは存在したが、それらは得てして自らの哲学的見解を通した芸術作品に対する美学的分析という域を出るものではな…

物語的誤謬

ナシーム・ニコラス・タレブは、レバノン内戦時にフランスへ渡り、パリ大学において数理ファイナンスの研究にて博士号を、またペンシルバニア大学ウォートン・ビジネス・スクールでMBAを取得、ヘッジファンドのクオンツ兼トレーダーになった人で、有り余るほ…

田辺元と個の偶然性-「哲学のヤンキー的段階」理解のための予備的考察④

田辺元という人は、哲学者にしては珍しく大変な秀才だったと言われる。確かに、著作を読む限り、同時代の哲学者だけでなく、現在に至る日本の哲学者の中でも、頭の出来はピカ一だったのではないだろうか。もっとも、頭の出来がいいからと言って、面白いもの…

曖昧さについて

ケインズ『確率論』において提示された確率の論理説の見解を批判し、いわゆる主観説を主張したフランク・ラムジー「真理と確率」は、確率を個人の「部分的信念の度合い」という解釈の下で分析することで確率概念を位置づけ、人間の精神作用における論理性を…

蒼生安寧、是を以て宝祚窮りなく、宝祚窮りなし是を以て国体尊厳なり。国体尊厳なり是を以て蛮夷・戎狄率服す

いわゆる「皇国史観」という言葉を聞くと、大東亜戦争での大敗という結果を招いた軍国主義体制を思想的・精神的に下支えしたイデオロギーであるとの条件反射を示す日本人は多いのではないだろうか。「皇国史観」という言葉が喚起するイメージは、まるで「悪…

「新帝国主義」という視点

マルクス主義者ではないどころか、経済理論に関しては、一見相互に矛盾するかに見える、ポスト・ケインズ主義とオーストリア学派を足して二で割ったような立場を採る者なので、当然にその主張の全てに必ずしも同意できるわけではないのだが、1980年代半ばか…

祝!阪神タイガース優勝

巨人倒しての優勝、実にいいねえ。 以上

ヘッジファンドへの誤解?

金融工学といっても、とてもじゃないが「科学」と呼べる域には達しておらず、その胡散臭さは身内からも指摘されて久しい。数学や物理学の研究者からすれば、「似非科学ではないか」との疑念を抱かれるだろうと想像される。確率論をその定量的側面だけではな…

You’ve got to hate to make money!

僕自身の専門分野に関わる内容について直に触れることは職業柄できれば避けたいことなのだが、あまりに面白く、しかも当該分野に携わっていない一般読者にとっても気軽に読める好著があるので、この場を借りて紹介したい。 我々が普段書店で目にする投資助言…

チュチェ思想再考

チュチェ思想として知られる政治哲学は、1972年に朝鮮民主主義人民共和国(北朝鮮)公式の「唯一思想体系」としての国家的イデオロギーに確立された。日本語では「チュチェ」を「主体」と訳し、「チュチェ思想」を「主体思想」と訳されているが、この用語の…

悪さに魅せられる若者-荒井悠介『若者たちはなぜ悪さに魅せられたのか:渋谷センター街にたむろする若者たちのエスノグラフィー』を読む

荒井悠介『若者たちはなぜ悪さに魅せられたのか:渋谷センター街にたむろする若者たちのエスノグラフィー』(晃洋書房)は、一橋大学大学院社会学研究科に提出された博士論文が元になった社会学の研究書である。 十数年前に世に出た『ギャルとギャル男の文化人…

「新しい人」と「永遠の夢の時」-大江健三郎逝去

大江健三郎が88歳で老衰のため逝去という報を目にして、しばし茫然とするばかり。何とも言い難い虚脱感のような感覚に捕われ、仕事に身が入らない状況だ。 この報を目にしたのがつい先日であったので、おそらく、葬儀その他諸々の行事を親族だけで済ませて一…

「汚れ仕事」と日本社会

何年ぶりだろうか。久々に伊丹十三監督の映画『マルサの女』と『マルサの女2』を観た。両作品は、宮本信子が扮する東京国税局査察部の査察官板倉亮子が、脱税を働く会社経営者や地上げ屋稼業に勤しむ宗教法人役員といった海千山千の「悪党」らの不正を摘発…

重信房子女史出所

日本時間5月28日午前に、重信房子元日本赤軍最高幹部が刑期を満了して出所したとのこと。日本国内では大きなニュースとして取り上げられているようだが、大阪の高槻市で逮捕されたという衝撃の報から20年以上も経過していたことになる。 服役していた頃から…

偉大な碩学の足跡

我が国における西洋中世哲学研究の権威として高名な稲垣良典九州大学名誉教授が今月15日に帰天されたという。享年93歳とのことだが、最近まで新書の形で一般読者向けにわかりやすく、しかしなるべく問題の水準を落とさないような工夫を施しつつ、形而上学や…

エーリッヒ・ベッヘルの形而上学-「哲学のヤンキー的段階」理解のための予備的考察③

職場の同僚の話によると、エーリッヒ・ベッヘルはドイツでは優れた哲学者として知られているらしいが、現在の日本ではほとんど触れられることはない。ドイツ出身でカトリック教徒である知人から紹介されるまで僕も知らなかったわけだから偉そうに言えないの…

「自己責任」論と「無料オプション」

去年の今頃は、アホほど高かったニューヨークのアパートメントの家賃相場は一旦下落傾向を示したけれど、そんな状況は長続きせず、いつの間にやら再び高騰に転じ、コロナ禍前の水準に戻ろうという勢いが見られるところがチラホラ出始めてきた。マンハッタン…

解除の法的性質について

法学部(厳密に言うと、教養学部文科Ⅰ類在籍の者は2年時の後期から民法の一部分に関して履修が始まるが)で民法の講義を受講した者ならば必ず触れたことのある解除の効果についての法的性質に関し、学修したばかりの者からすれば、判例及び通説の見解に納得…

日本におけるポストモダニズムと批評

柄谷行人(編)『近代日本の批評』シリーズ全3巻(講談社)は、Ⅰ-昭和篇(上)、Ⅱ-昭和篇(下)、Ⅲ-明治・大正篇から成る。各巻前半後半に分かれ、柄谷行人・三浦雅士・浅田彰・蓮實重彦・野口武彦が執筆した論文を叩き台にして共同討議を展開するという…

「美的な乱暴」の系譜-「哲学のヤンキー的段階」理解のための予備的考察②

1990年代後半から2000年代にかけて、東京の繁華街、中でも渋谷センター街を中心に遊んでいる、概ね15歳から22歳までの若者の中で目立った存在であった「ギャル」とその男性形の「ギャル男」といったある種の「トライブ」を対象に、比較的長期にわたる参与観…

空間論・時間論に対して共同主観性論及び物象化論はどの程度寄与しうるのか

世界観総体の革命を企図する壮大な哲学体系樹立を目指した廣松渉にとって、世界認識の範疇的枠組たる空間や時間の概念がその検討さるべき主題となるのは必然的であろうと思われるところ、その膨大な業績を見渡しても、廣松哲学に固有の空間論・時間論と呼べ…

真理についてのquid factiとquid juris-「哲学のヤンキー的段階」理解のための予備的考察①

廣松渉は、広く実践哲学・価値哲学・社会哲学・歴史哲学・文化哲学をも論域に収めた哲学体系を打ち立てることにより、「近代的世界観」の地平を超克し、新たな世界観の定礎を目論んだ哲学者であった。この目論見は、哲学の理論的な動機からというより、「資…

デボーリンとイリエンコフ

赤色教授養成学校哲学部での教え子マルク・ミーチンによる攻撃によって失脚したアブラム・デボーリンは、ロシア革命を経て建国されたばかりのソヴィエト社会主義共和国連邦哲学界を牽引する一人であった。ゲオルギー・プレハーノフの弟子であり、1920年代に…

外国人投票権について

先週、米国のニューヨーク市議会は、永住権もしくは就労許可を得ている、同市に30日以上滞在する外国籍の者に対して、市長選及び市議会議員選挙における投票権を付与する法案を可決した。これによって、来年初めからニューヨーク市在住の要件を満たす約80万…

高天原とは

辛酉正月一日、太陽暦にして2月11日。日向を出立され、大和にたどり着かれたカムヤマトイワレヒコノスメラミコト(『古事記』と『日本書紀』とでは漢字表記が異なるだけでなく、その御名も微妙に変わるので、とりあえず『日本書紀』の記載をカタカナで表記し…

危険なリベラリスト

我が国の国際政治学は、米国のそれとは全く異なる様相を呈している。特に米国では、大学のみならずシンクタンクが充実しているので、国際の政治経済状況に関する論文やレポートが飛び交い、金融業者の中でも、カントリー・リスク分析のために、その類のもの…